M2M〜モノとモノをつなぐ技術としてのIPv6

M2M〜モノとモノをつなぐ技術としてのIPv6

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インテックネットコア
荒野高志


 2004年末に首相官邸IT戦略本部から「IT新改革戦略−ITによる日本の改革−(案)」が公開された。医療・福祉、環境、交通、防災などさまざまな産業を通信ベースのITで支え、より豊かな社会を作っていこうというものだ。このベースとなるアイデアの1つがM2Mである。

 M2MはMachine-to-Machineの略で、「もの」と「もの」の通信、及び通信を利用したサービスのことである。「もの」とは、コンピュータ、プリンタだけでなく、カメラ、各種センサー、車、家電、空調、照明、エレベータ、ガスメータ、ロボット、工作機械、自動販売機、RFID搭載物、まで世の中のありとあらゆる電子化された機械・装置をさす。

 機械間の通信と聞くと、テレマティクス、テレメトリ、工場生産管理、ビル管理など、おなじみのものも多く“何が新しいの?”という疑問をお持ちになる方もいるかもしれない。確かに今までも個別のシステム、専用プロトコルによる「もの」の制御管理システムは数多く存在していた。それらと違って、M2Mという言葉の重要な点は、そういうシステムがIPという共通でオープン基盤の上に構築されているというところにある。共通基盤の上に乗ることによりブロードバンドネットワークが利用でき、部品や情報の共通化も可能になる。単なる「○○管理システム」の集合体ということではなく、M2Mの“Machine”という一般用語にこめられていた大事な意味がそこにある。

 オープンなM2Mを支える基本プロトコルとして期待されているのがIPv6(IPバージョン6)である。IPv6の一番の特徴はなんといっても天文学的な数のアドレス(通信する機器に割り当てる番号)の量であり、その「量の変化」が、アドレス割当手法の差やつながる機器の量の違いなどにより「質の変化」になっていく。IPv6の基本仕様が策定されて10年たつが、ようやく対応機器や運用技術も利用可能となってきており、徐々にさまざまな応用分野で実用として使われるようになってきた。一方、現行のインターネットのバージョンであるIPv4のアドレスは枯渇しかけている。2005年9〜10月前後に相次いで発表された最新の予想ではアドレスの枯渇は2009〜2014年ぐらいといわれている。M2M自体は当面IPv4も併用して構築されていくだろうが、将来にわたって使い続けるような新しいシステムを構築するのに今やIPv4で構築するほうがかえって拡張性や長期的コストの点でリスクが高いというのが、ネットワーク専門家の共通する意見である。

 M2Mサービスで対象となる機械や機器類は上記のように種類・数量ともに膨大であるとともに、用途も幅広い。「もの」の管理や監視、「もの」からのデータ収集や「もの」を通じてのサービス提供などさまざまである。まさに「もの」の種類・数量と、サービスの種類との掛け算だけ、新サービスができあがる可能性がある。代表的なものをいくつか紹介し、「もの」がつながる効用を見てみよう。

 まずは米国国防総省での応用である。国防総省ではIPv6を2008年までに彼らのネットワークに配備するとアナウンスしており、それを“Global Information Grid”と呼んでいる。つまり、戦闘機・戦車・戦闘機、地雷、兵士、作戦本部などを関連するすべての「もの」を接続し、情報を流通させようというのである。今までそういう情報ネットワークがないときには、救援物資がもはや必要とされない場所に届いたり、作戦の浸透が不十分だったりしていた。「もの」からの情報により、より高度な戦略遂行が可能になる。

 ビルのファシリティ管理の応用も進みつつある。松下電工の実績によれば、空調、照明、エレベータなどを適正に管理することにより、30%程度の省エネが可能だという。従来はエレベータ、空調などと個別システムで運用していたわけだが、IP基盤の上に統合システムができることのメリットは大きい。またIPv6を用いることにより、最近の都心の再開発地域に見られるような十数万点の管理対象を管理する複合型ビルや、遠隔地の複数のビルを1つのセンターで管理するようなケースも柔軟に対応できるようになる。

 各種センサーを多数ネット接続し、情報を収集することにより、今までなかったような種類の情報を得ることもできる。有名な例がWIDEプロジェクトでのITS実験である。名古屋市の2000台のタクシーにセンサーとIPv6機器を搭載した。ワイパーの動きとGPS情報を組合せることにより、その時点での「お天気マップ」ができる。気象庁の発表するような地域単位のものではなく、通りやブロック単位の非常に詳細なマップである。このマップを用い、空車タクシーを雨の強いエリアに向けることによりタクシーの回転率が上がるという。また、最近では気象情報などのセンサーの値段も下がってきた。IPv6普及高度化・推進協議会が中心となって設立したLive E!プロジェクトではデジタル百葉箱と呼ぶセンサーを全国各地に設置し、活きた地球のデジタル環境情報の自律的な生成/流通/加工/共有のための基盤づくりの実験を開始した。情報をオープンに流通させることにより、自由な発展をさせるという発想はインターネットならではのものであり、今までの専用プロトコルでの計測とは全く異なる意味合いをもつものである。

 総務省主幹でのIPv6移行実証実験も平成17年度はこれらIPv6/M2Mソリューションをテーマに、15の応用分野を全国15地域で展開している。その地域での切実なニーズを解決するための文字通り「ソリューション」を提供し、その実現手段としてIPv6が優位であるような事例を集めてある。その意味で実証実験とは名がついているが、非常に実用性が高く、横展開可能なソリューションが試行されている。実用性という意味からは15応用の中でもWebカメラの有効性が目立つ。北海道新冠町での防災プロジェクト、沖縄県宮古市での環境再生プロジェクトなど、今まで人が目視していたものを機械が代わりに実施するメリットは大きい。これ以外に、M2Mとしての可能性を感じさせるのは、LPガスの遠隔計測であろう。アナログ電話などを使って行っていた遠隔計測を今回の実験でIPv6化した。LPガス運用会社であるJA-JPガス社では、従来も限定された接続の中で、緊急通報システムなどのサイドビジネスを行っていたが、今回のIP化により、ブロードバンドなどのより高度な環境を利用してのより多角的なサービスの展開が可能となるという。

 M2M応用の可能性について述べてきたが、課題も多数ある。オープンな相互接続とはいえ、それはネットワーク層でのことであり、家電、車などアプリケーションレベルの相互接続にはまだ多くの課題が残されている。また、搭載機器のIP装置のコスト問題、それらの認証の問題、セキュリティ確保の問題などである。

 古くは弾道計算から在庫管理システムまで、すべての計算機プログラムはそもそも現実世界の計算仮想世界でのシミュレーションであるということを考えると、M2Mというアイデアは実物の「もの」を計算機の仮想世界に、より直接的に、より精密に、よりリアルタイムに取り込み、コントロールする手段であると捉えることもできる。適切な場面で用いられる精密でリアルタイムなシミュレーションは、ビジネスの効率化や暮らしの利便性向上を図ることができるだろう。新規ビジネス的な視点で見ると、コンピュータのワンチップ化により「もの」が通信コンピュータ化し、またネットワークがあらゆるところで高速に安価に利用できるような環境が提供されるというような状況の中、今までつながっていなかったさまざまな機器をネット接続し、多様な応用分野で多様な応用方法を考案することによりビジネスが開けていく、まさにアイデアを実現したもの勝ちというような宝探しのような分野であるともいえるのではないか。

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