IPv6を使ったビル施設管理システムの実証実験〜東京都「東京芸術劇場」

IPv6を使ったビル施設管理システムの実証実験〜東京都「東京芸術劇場」

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IPv6Style編集長
中島由弘

 NTTコミュニケーションズは東京都が管理する2つの公共施設、東京芸術劇場と東京都美術館に対し、IPv6を使ったビル設備管理システムを導入し、その有効性を実証する実験を開始した。これは総務省が行う「IPv6移行実証実験」の一環として行われる。今回はその中から東京都豊島区にある「東京芸術劇場」での利用例を取材した。


ビル管理システムの現状

 大規模なビルでは電力、空調、照明などの設備を監視室で集中管理している。こうした設備はビルの楽屋裏で、一般にはあまり目にしないだろう。それぞれのオフィスでも照明のオン/オフや空調の制御はできるが、特にビル内の共用部分の管理やオフィスに対しても、故障検知、防災、省エネルギーの観点から集中的に管理と制御をすることが一般的だ。夜間、共用部分の電灯を消すために管理人が巨大なビルを見回ることは効率が悪いし、ビル内の設備に故障が発生した場合、いち早く管理室で把握し、修理などの対策をとることも重要だ。
 これまで、こうしたビル施設管理はさまざまなビル施設管理システムの専門事業者が各社独自のシステムを提供しており、それぞれは互換性を持たないものだった。そして、設備の監視と制御が目的であり、どのように制御するかは人間の判断が必要だ。今回の実験ではセンサーネットワークを導入し、監視と制御を基本とし、さらにセンサーから収集した細かい情報の分析ができる。
 この記事で紹介する例は東京都が持つ劇場の例だが、もちろん、オフィスビルでも基本的には同じシステムだ。


IPv6を使ったビル管理システム

 この実験で「東京芸術劇場」で導入したビル施設管理システムの場合、つぎのような監視と制御ができる。

  • 空調
    オン/オフ
    温度調整
  • 電力
    故障検知
  • エレベーター/エスカレーター
    故障検知
  • 照明
    オン/オフ

 もう1つの実験である東京都美術館の場合、温度センサーと人感センサーを使って、展示室の混雑具合と温度をもとに適切な温度管理に活かしたり、入場者数を検知することでどこの展示室に人が滞留しているかを計測したりできるようになっている。
 従来のビル施設管理システムは写真1のようなものである。今回のシステムでは写真2のようなPCのウェブブラウザーを使ったものに変更されている。したがって、PCがあれば新たなコンソールのハードウェアを導入しなくても、同じようなユーザーインターフェイスを使って操作ができるようになっている。

写真1:従来のビル施設管理システムの制御コンソール
写真1:従来のビル施設管理システムの制御コンソール

写真2:今回導入されたウェブブラウザーを使った制御コンソール
写真2:今回導入されたウェブブラウザーを使った制御コンソール

写真3:それぞれのセンサーノードからの情報が集まる装置
写真3:それぞれのセンサーノードからの情報が集まる装置


ビル施設管理をIPv6にする意味

 いうまでもなく、ビルは耐用年数が長く、完成後に設備を追加したり、入れ替えたりするには大きな工事を伴う。当然、コストがかかるだけではなく、工事の期間中は施設が使えなくなる。商業ビルの場合はそれによる営業機会の損失にもつながる。したがって、ビルのランドロードは当初の設計段階から長期での利用を前提としたシステム設計をする必然性がある。
 従来はビルを建設する時点で特定の事業者の管理システムを導入するのだが、事業者間では互換性がなく各社独自のものであった。そのため、ビルの完成後のシステムのメンテナンスなどを特定のビル施設管理システムのベンダーに依存することになる。特定の事業者への依存が長期間に渡って起こることは、ビルのランドロードはもちろん、今回の例のような公共団体としては健全な発注価格を維持できなくなるかもしれないという懸念がある。
 そこで、こうしたシステムをIPv6というオープンな技術によって構成することのメリットが出てくる。公共団体からすると特定の事業者への依存を弱めることができ、健全な発注価格を維持できる可能性がある。また、オープンな技術を構成するパーツなどは製造に関わる量産効果が期待でき、メーカー間の価格競争も起こりやすく、より低価格に調達できる可能性が広がる。つまりビルのオープン化である。
 こうした調達に関わる開放性以外にもメリットは多くある。センサーネットワークのようなM2M(Machine to Machine)のネットワークを構築することで、従来よりも細かいデータを収集することができるようになる。収集したデータを統計的に分析し予測制御に活かすことで、自動的にエアコンを停止して不必要なエネルギーを使わずにすんだり、必要なところではエアコンを止めないようにするなど総合的に無駄を減らしたりして、エネルギー効率を上げることが期待できる。また、人感センサーを使って、ビル内のどこに多く来場者が集まっているかということが分かれば、係員や警備員の配置をダイナミックに変更したり、多様なサービスを展開したりできるため、整然とした会場運営ができ、結果として顧客満足度につながると考えられる。
 技術的に見ても、IPv6を使うメリットは大きい。大規模ビルで施設の管理を行おうとすると、およそ200,00〜30,000のセンサーノードが必要となることもある。これをIPv4で実装することはネットワーク構成を複雑にし、ネットワークトラブルの解決や将来のネットワーク変更にも多大なコストが伴う。
 さらにIPという共通のネットワークを作ることができれば、それを複数の目的で多重に利用できる。IPのインフラはビルの管理だけではなく、VoIPを使った電話、ビル内でのインターネットへのコネクティビティの提供なども可能だ。
 これらはビル内の効率化の観点のメリットだが、インターネットの技術を使うことで、遠隔からの監視も容易になる。東京都の場合、都庁の関係部門、アウトソースしたビル施設管理会社、エレベーターなどの設備の納入会社、電力会社などがそれぞれの拠点から状況を見ることができ、故障などのリスクに対して迅速に適切な対応ができるようになる。

図1:東京芸術劇場と東京都博物館でのビル施設管理システム
図1:東京芸術劇場と東京都博物館でのビル施設管理システム

図2:施設内での情報共有による運用効率化
図2:施設内での情報共有による運用効率化


図3:将来の空調設備の予測制御の可能性検討
図3:将来の空調設備の予測制御の可能性検討

まとめ

 「IPv6移行実証実験」は3年前から実施されている。初年度は技術的にIPv4からIPv6に移行するための検証を研究室レベルで行い、移行ガイドラインが作成された。2年度目はIPv6の用途などについて実験を行い、いくつかのアプリケーション開発などを行ってきた。3年目となる本年は主に自治体サービスを対象として、IPv6がソリューションとして、つまりより具体的にいまある課題をコンピューターネットワークによってどれだけ解決されるかという点を実験している。
 ビル施設管理システムはエネルギー資源の削減、CO2排出削減などを実現するために、より高度な制御を行うことが求められている。こうした目的のためにIPv6という技術がいかに寄与するかということを研究していくことが目的だ。別の実験結果では空調と照明のきめ細かいコントロールによって、約3割のエネルギー費用が削減できたということも報告されている。この実験でもそうした効果が検証されることになるだろう。
 より効率のよい設備投資という観点からも長期的にはIPの技術を使うことは有効である。クライアントPCが多いオフィスネットワークをIPv6にする事例が増えてきているが、それよりもより多くのセンサーをネットワークでつなぐことを考えると、IPv4を使ったネットワークではアドレス管理、ネットワーク構成変更に関するアベイラビリティの低さに起因し管理コストが高くなるといわれている。こうした事例からコストを削減し、さらに顧客の満足度を上げることを目的として使われていくことも求められている。

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