ネットワーク&ソフトウェア テクノロジーセンター プレジデント
所 眞理雄 氏
「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」をキーワードに、ネットワークとコンシューマエレクトロニクス製品の融合を進めるソニー。2003年の秋からは、IPv6対応の家電製品を発売していくという。ソニーにおけるIPv6推進の背景や戦略を、Co-CTOの所眞理雄氏に聞いた。所氏は、1997年まで、慶應義塾大学教授を務めていたが、1997年にソニーへ移り、現在に至っている。慶応義塾大学時代も、1988年2月からソニーコンピューターサイエンス研究所の副所長を兼務していた。
2003年秋にはIPv6対応家電を市場に出す
編集部:今後ソニーが製品を考えていくときにIPv6はどのように絡み、どのような意味を持つのでしょうか。所:IPv6の技術は日本が先行しています。特にプロトコルスタックの実装についてはこれが言えます。その意味で、IPv6は日本が貢献しながら国際的に推進していけるものであるという特徴を持っています。それから、日本は比較的インターネットを始めたのが早かったので、アドレスの状況はそんなに惨めなものではないかもしれませんが、今後アジアをみたときに、アジアの一員としての日本はIPアドレスの適正な配分も考えていかなければなりません。特にこれまではIPをしゃべるのはコンピュータだけだったが、これからはデジタル家電やモバイル機器、携帯電話がつながるようになってくる。そうなってくると、日本でさえも、現行のアドレス配分では足りなくなってきます。ましてやアジアではもっと深刻な問題が起こる。中国では、ソニーが持っているIPv4アドレスのスペースよりも中国が持っているアドレススペースのほうが小さいということまで起きてしまっています。将来を見るとIPアドレスが十分使えるようなことを考えていかなければなりません。加えて、情報家電や携帯電話が常時接続型になってくると、そのとき使っている人だけにIPアドレスを割り当てればいいというわけでもなくなってくる。ということでIPv6はマストであるとソニーの中で議論してきたし、うちの会長の出井伸之とも90年代の後半から事あるごとに、IPv6はいつも頭のなかに入れておかなくてはいけないということを話し合ってきました。そうしたところ、2000年にIT戦略会議の会長として出井が就任し、戦略の1つとしてIPv6を取り上げたことで有名になってしまった。そういう流れでソニーとしてもIPv6には思い入れがあるし、商品化も進めています。
編集部:より具体的には、2002年の決算説明会におけるプレゼンテーションのなかで、2003年中にIPv6対応製品を出し始めることが示されたわけですが。
所:はい、出していくことができると思います。実験という意味では2002年度からだいぶやっていますが、2003年に実際の対応商品が出てくるということです。
編集部:それは家電製品ですか。
所:はい。本当はアプリケーションまで含めて、世の中が全部IPv6になっていくときが一番重要なんですけれども、ビジネスセクションとしてはそういう動きを見ながら、先行して製品を出していきます。技術的な準備はほぼ完了していると言えます。
編集部:こうした商品は、ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)のインターネット接続サービスと組み合わせていかざるをえないのでしょうか。
所:ソニーで言えばSCNのSo-netがありますが、インターネットの思想から言ってクローズドなものはなじまないので、サービスは他の通信事業者からもどんどん出てほしいし、うちとしては端末側のソフトを充実させていきます。すでに情報家電実験ではPlayStation2でチャットソフトをやったし、TV電話ももうすぐ見せられると思います。
編集部:Cocoonのようなホームサーバあるいはゲートウェイと、持ち歩くNetMDのようなものの組み合わせになるのかというイメージがあるのですが。
所:IPv6の、アドレス以外のもう1つの利点はピアツーピア(P2P)をやるときに有利だということです。そこで、P2P型のアプリケーションが最初に出てくると思います。公式発表として何がいつに出るというのはないが、ゲートウェイ商品や端末も今年の秋冬からいろいろなものが出てきます。(出荷時期は)最終的にはアプリケーションとの関係で、基本技術はreadyだと言えますが、アプリケーションをどう対応させるかという問題があります。しかもそれが魅力のあるアプリケーションでなければなりませんから。
ユビキタスな世界にはIPv6はマスト
編集部:すでにソニーではCocoonチャネルサーバで動画をVAIOとの間でやり取りし、互いに見られるようにするような試みを進めていますが、チャネルサーバをIPv6対応させて、直接操作できるようにするだけでも一定の魅力があると思います。どうでしょう。所:その通りです。端末がIPv6対応になるときには(チャネルサーバのような)ゲートウェイ商品もIPv6対応になっていいきます。分かりやすく言えば、すべての商品がIPv6対応になっていくということです。それぞれの対応がいつになるかは、なかなか今の時点では言えませんが、そういう方向に確実に向かっています。当社が目指しているユビキタス・バリュー・ネットワーク(UVN)をフルに実現するためにはIPv6はマストだと言っていい。もちろん、IPv6がないと何もできないかというと、そうではありません。IPv4でもできる部分はあるが、IPv6のほうがやりやすいと思います。最終的にはIPv6はマストであると言えます。
編集部:家電メーカーとして考えたときに、P2Pはどうビジネスになるのかというのはテーマとしてあると思います。通常家電メーカーがネットワークサービスを強化していく際には、何らかの形で介在するサービスをやるからこそ利益が生まれるという考え方があります。しかしP2Pではネットワークを使ってユーザや端末同士がやり取りをするので介在しにくく、家電メーカーとしてビジネスになりにくいということはないのでしょうか。
所:われわれは全然そんな風に考えていません。P2Pでは、たしかに仲介サービスはやりにくいと思いますが、ソニーは仲介サービスをしているわけではありません。たとえばコンテンツのサービスをする際には、いつでもどこからでもそのサービスを受けられるほうが、われわれとしてメリットがあります。IPv4よりもIPv6のほうが売上が減るということはないと思います。その一方で、仲介サービスが完全になくなってしまうわけではありません。携帯電話は自分と相手の電話番号がわかっていて、世界中で会話ができるが、どこにいるのかを識別できるなど、最低限のことはやっている。それと同じようにIPv6でも、どこにいるか分からないのにアドレスだけで通信するというわけにもいきません。ロケーションとかルーティングのサービスは必ず要ります。ただ、そういうところの付加価値はIPv4のときよりも少なくなると言うのは事実だと思います。だから囲い込みではなくて、本当に価値があるかどうかということについてのフェアコンペティションになっていくのではないかと思います。
編集部:IPv6でUVNという方向性の話がありましたが、もう少し詳しく、なぜUVNにIPv6がマストなのか、さらにIPv6以外のほかの機能が必要なのではないかをお聞きしたいのですが。
所:1億人のユーザがいるときに、電話番号が5けただったらどうするかという話だと思います。IPv6になったら認証が要らないかといえば、そうではない。また、DoS攻撃があるかもしれないと反論してくる人がいるが、それは「抵抗勢力」であり、既得権を守ろうとしている人の言うことです。それからアドレスをたくさん持っている国はいい。(そういう批判を耳にした場合には)言っている人が誰なのかを考えなければなりません。サイエンティフィックにどうだという話ではなく、ビジネスとして、今の時点で誰にとって得か損かということで議論がされがちですが、それは短い期間の話です。中国であれだけ携帯電話やインターネットの利用者が爆発的に増えてきている。これからはインドネシア、インド、ロシア、東欧といった人口の多い国がますますインターネットを使う。そうなったときに、IPv6じゃなくてIPv4で十分だよという議論が通じるのか、それはエゴではないのかというのが僕の考え方です。紆余曲折はあるかもしれないけれど、いいじゃないか、必ずなるんだからやっていこうよ、ということです。「日本はやっていこうよ」というのがIT戦略会議だし、「ソニーはやっていこうよ」というのはもちろんソニーとしての意思です。その中間段階としては、相手がIPv4しかしゃべらない場合のために、IPv4とIPv6のデュアルスタックを用意していきます。最終的にはその時々でお客様が決めることなので、「とりあえずIPv4でいいや、でもIPv6になったときに平気だよね」と言われて、「はい平気です」と答えられるようにしていく。ということです。2003年に出てくるものから、同時に全部というわけにはいきませんが、順にIPv6に変えていくつもりです。
編集部:それに関連して、IPv6関連のサービスを先行して始めている通信事業者は、最終的にIPv6が来ることは分かっていても、その時々で投資に対するリターンを求められると苦しいという状況があると思いますが。
所:IPv4とIPv6のルータの間に、たいして値段の違いがあるとは思えません。そういうロジックは違うと思います。日本全体として、IPv4のルータを全部IPv6対応に置き換えて行こうとしたときに、追加で毎年いくらかかるかという試算をしたこともあります。具体的な数字は憶えていませんが、致命的に大きな違いはなかったと思います。いずれにしても、新しいルータに置き換えていかなければならないわけですし、実際、大手の事業者はすでにIPv6対応のルータを買っていると思います。いつ、どうやってIPv6のサービスをするかは経営判断ですが、みんながIPv6に移行したときに、「うちはIPv4ですよ」といつまで言えるのか。そういうリスクはものすごく大きいと思います。
| 前のページ 1/2 次のページ | |
この記事のトラックバックURL
http://www.ipv6style.jp/trackback/212





