地震災害対策の新しい礎となる、NTTコム「緊急地震速報サービス」

地震災害対策の新しい礎となる、NTTコム「緊急地震速報サービス」

〔シリーズ連載〕NTTコミュニケーションズ レポート(3)
~担当者が語る八重洲地下街での導入状況と、今後の事業の広がり

IPv6Style編集部 青山祐輔

 NTTコミュニケーションズが7月1日から提供を開始した「緊急受信速報配信サービス」は、IPv6マルチキャストを利用することで地震災害の軽減を目的としたサービスだ。

 NTT東日本/西日本が運営するフレッツ網を利用して、オフィスや家庭に設置した専用受信端末に、地震が発生した直後に速報を通知するというもの。地震の揺れが到達するよりも速く発生を知らせることで、少しでも揺れに対して備えて、被害を軽減することが狙いだ。

 そもそも緊急地震速報とは気象庁が2004年2月から試験運用を行なっているもので、気象庁が全国各地の約1,000カ所に設置している地震計のデータを瞬時に解析し、震源地や規模を直ちに伝達することで、交通機関やインフラ事業者での緊急対策を迅速に行なうことを目指したものだ。これまでは行政機関や報道機関、鉄道事業者などなど、公共性の高い組織や施設に対して試験的に提供されてきた。

 そして2006年8月からは対象を拡大した先行提供が行なわれ、今年6月にはついに「10月1日から緊急地震速報の一般への提供を開始」すると発表。これにより希望する事業者はだれでも、緊急地震速報の配信を受けられることになった。

 緊急地震速報の配信を受けるためには、気象庁(気象業務支援センター)と契約し専用線を引いて直接データを受け取るほかに、再配信サービス事業者と契約する方法がある。配信方法はサービス事業者ごとにさまざまで、専用線、インターネット経由、衛星通信など、いくつもある。その中でIPv6を利用したサービスが、NTTコミュニケーションズの緊急地震速報配信サービスだ。

 日本では、地震を避けて暮らすことはできない。建物自体を耐震構造にしたり、定期的に避難訓練を行なったり、また非常持ち出し袋を準備したりと、災害に対する備えはこれまでも常に行なわれてきた。

 これらの地震への備えは、地震発生直後や被災後に重点を置いたものが主流だった。しかし、緊急地震速報サービスは地震を“揺れる前に知る”という、従来は難しかったことをテクノロジーに発達によって可能にした、新しい地震対策だ。

 このNTTコミュニケーションズの緊急地震速報サービスを実際に利用している事業者に話しを聞いてみた。

サービスを選んだポイントは「バランスの良さ」

 八重洲地下街は、東京駅・八重洲口の地下に広がる日本最大級の売り場面積を持つ地下街だ。飲食店や雑貨店、衣料品店など、日常的に利用者が多い店舗が多く、東京駅の改札口に接続していることもあって、昼夜途切れず地下街全体でかなりの人通りがある。

 八重洲地下街では、2006年10月からNTTコミュニケーションズの緊急地震速報サービスを導入している。サービスの端末を防災センターに設置し、営業時間内に「震度5弱」以上の地震発生が通知された場合に、地下街の飲食店に対して館内放送で警戒を呼びかけるという使用方法だ。ただし、現時点では不特定多数に対して緊急地震速報の情報を伝えることはできないため、火を扱う飲食店に対してのみに理解できる暗号メッセージを放送するに留まっている。


八重洲地下街の中心部となるメインアベニュー

緊急地震速報の端末を設置してある防災センター

 緊急地震速報の再配信サービスを行なっている事業者は複数ある。その中でNTTコミュニケーションズを選択した理由を八重洲地下街株式会社 保安部の戸田正治部長は「いろいろあるけども、一番バランスがいいところ」だという。

 八重洲地下街は、あたりまえだが地下にあるため通信衛星を利用するタイプのサービスは、アンテナの設置場所が確保しにくい。また有線を利用して、専用線やインターネット経由して地震速報を配信するサービスも複数存在するが、他社と比較した場合NTTグループという点が信頼度につながったという。

 これらのさまざまな要素を検討した結果、八重洲地下街にとってはNTTコミュニケーションズの緊急地震速報サービスが「一番バランスがいい」という結論になったというわけだ。


八重洲地下街株式会社 保安部の戸田正治部長

 10月1日からの本格運用を前に、八重洲地下街では9月の防災週間に緊急地震速報を組み込んだ避難訓練を行なう予定だという。緊急地震速報を有効に活用し、また配信時のむやみなパニックを避けるためには、緊急地震速報サービス自体が市民に広く認知されることが重要だ。

 そのために戸田氏は全国、全サービスで統一された“警告音”の必要性を強調した。「学校や地域の防災組織などの訓練で、統一した音でやっていただければ、こういう不特定多数の人が来るところでも、皆さんあの音だとわかっていただける」。

 2006年10月にサービスを導入して以来、実際に震度3前後の地震速報が十数回ほど発生したが、緊急放送を行なう規定の「震度5弱」は今のところ未経験だ。しかし、サービスへの信頼性は、すでに十分に高いという。

 では、その信頼性の高さはどこから来るのだろうか。サービスを提供するNTTコミュニケーションズの担当者にうかがった。

緊急地震速報サービスに必要なのは迅速さと信頼性

 緊急地震速報サービスを提供しているNTTコミュニケーションズ ブロードバンドIP事業部 サービスクリエーション部の小林年晴担当課長によると、6月の正式サービス開始以来、相当数の問い合わせが来ているという。小林氏によると、これまで実証実験を行なってきて、ユーザーから緊急地震速報サービスに求められる技術ポイントは2つに絞られるという。迅速さと信頼性だ。

「このサービスは一刻一秒を争うサービスですので、遅延が命取りになります。そういう意味で、お客様に迅速にこの情報を届けるためにはIPv6マルチキャストが一番いいだろうということで、採用しました」


NTTコミュニケーションズ ブロードバンドIP事業部 サービスクリエーション部の小林年晴 担当課長

 緊急地震速報は、できるだけはやく地震の発生を知らせるためのものだ。したがって、システムの都合によって情報の伝達に遅延が発生することは極力避けなければならない。緊急地震速報サービスの情報伝達経路は「気象庁(気象業務支援センター)→再配信事業者→ユーザー」という流れをたどる。NTTコミュニケーションズの緊急地震速報サービスの場合、気象業務支援センターからのデータを、ほぼ加工なしで利用者に配信している。また、配信もIPv6マルチキャストを利用しているため、すべての利用者に対して同時に送信が可能だ。

 これらの技術によってNTTコミュニケーションズでは、気象庁からのデータが末端のユーザーに届くまでのタイムラグを、数十から数百ミリ秒というレベルまで小さくすることを実現している。

 もう一つの確実性についても、十分な対策が取られている。災害対策用の機器は、日常的に利用しないため、故障などに気がつきにくいことが多い。特に電子機器の場合、一見正常に動作しているように見えても、実は故障していたということもよくある話しだ。

 そこでNTTコミュニケーションズの緊急地震速報サービスでは、端末に対して数十秒ごとに擬似信号を送り、端末が正常に動作しているかどうかをチェックしている。この疑似信号は、実際の地震発生時と同じIPv6マルチキャストによって送信され、受け取った端末はサーバーに対して自分の状態を知らせる。このとき、端末の反応がない状態が続くようならば、何らかの障害が発生したということになる。

 このようにいざというとき迅速に、そして確実に、サービスの役割を果たすためには、かなり手間がかかっているのだ。

 実際に緊急地震速報サービスを開始して小林氏が驚いたのは、多くの企業の防災意識の高さだという。サービスを開始してから1ヶ月で約100件の問い合わせがあり、ほぼ毎日のように企業に説明にまわっているという。

「先日、名古屋でセミナーを行なったのですが、東海地方ということもあって地震を気にされる方が多くて、中小の工場などからもかなり引き合いがあったと聞いています」(小林氏)

 緊急地震速報サービスを求めている事業者は、おおむね3つのパターンに分類できるという。1つめは、不特定多数の来客がある映画館やデパートなど。2つめは、従業員の安全確保に神経を使う、建設・土木などの工事現場だ。3つめは設備の安全を求める、工場や商業施設だ。

 また、これから増えて行くことが見込まれるのが、マンションデベロッパーだと言う。安全性を高める1つの手段として緊急地震速報サービスをあらかじめ組み込んだマンションが、数多く計画されているという。背景には、住宅安全性に対する市民の意識の高まりがあり「大手のデベロッパーさんは皆さん導入を決めています」(小林氏)という。

緊急地震速報サービスのこれからの展開

 小林氏によると、試験期間から利用しているユーザーの満足度は高かったが、いくつか要望もあるという。

 1つは専用線サービスでも利用したいというものだ。現在はフレッツ網のみとなっているが、より確実性を求めるユーザーからは専用線や、IP-VPN上で利用したという声があるという。これに対しては、実際にVPNを使った緊急地震速報サービスを計画しているという。

 2つ目は、単にサービスを販売するだけでなく「これを元にどうやっていくのかってアイデアが欲しい」というものだ。

 緊急地震速報サービスは、ただ単にサービスを契約して端末を設置すれば、それで完了というものではない。そもそも緊急地震速報は、地震の発生を少しでもはやく知ることで、できるだけはやく地震に対してのアクションを取るというものだ。

 したがって、日頃から地震に対する備えがなければアクションも取れない。その備えは、緊急地震速報サービスを導入するだけで成り立つというものではなく、さまざまな災害対策の結果、成り立つものだからだ。緊急地震速報サービスを導入したとしても、実際に通知を受け取ったときに適切な行動が取れなければ無意味だ。

「このサービス自体の正確性は試験期間で信頼を得ることができました。それにともなって、じゃあ具体的にどうするのかというのを一緒に考えて欲しいという要望が出てきました」(小林氏)

 このため小林氏の部署では、本サービスに関わるすべての担当者が防災士の資格を取ったという。現時点では、まだ具体的なコンサルティングを行なってはいないが、実際に行なえるような人材育成が課題だという。

「地震の揺れはビルやマンションの形状によって揺れ方が違うのですが、それによって棚の置き方を変えた方がよいというアドバイスをしたり、マニュアル作りに際してビルの揺れ方を想定して避難経路とオフィスのレイアウトを提案したり、といったことまでできるような準備をしています」(小林氏)

 そもそも、ISPであるNTTコミュニケーションズが「緊急地震速報サービス」を提供する意義とは何だろうか。小林氏によると、通信事業者として責任感だという。NTTグループの1つとして、安心・安全へ取り組まなければという使命感の1つの形が、このサービスだという。

「緊急地震速報とはこんなものですよと伝えるだけではダメなので、これが起こったらどういうことをすべきなのか、この情報を元にどういうことをやった方がいいのか、その前にどういう準備をしておくべきなのか、そこまで含めてご提案を目指しています」

 地震大国の日本では、職場や学校などの避難訓練で、地震発生時の対応を学ぶ機会は多い。そして、技術の進歩によって実際に揺れる前に地震の発生を知ることができるようになった。今後はますます多様な方法で、緊急地震速報が伝達されるようになるだろう。

 しかし、地震の発生をいち早く知ることができても、そのための準備ができていなければ、大きな効果は得られない。これから私たちは、「緊急地震速報」という技術の発達によって初めて可能になったサービスを前提にした、災害対策を考えなければならない。

 NTTコミュニケーションズでは、単にサービスを販売するだけではなく、新たな災害対策の実現というビジョンを視野に入れて、緊急地震速報サービスに取り組んでいる。その姿勢には、単なる通信事業者ではないという強い使命感が感じられた。

(終)

■NTTコミュニケーションズ
http://www.ntt.com/
■緊急地震速報サービス
http://www.ntt.com/jishinsokuho/
■八重洲地下街
http://www.yaechika.com/

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