社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
IP事業部 奥谷泉
前回の号ではインドネシア・バリで開催された第23回APNICミーティングに向けて提出されていた提案をご紹介しましたので、この号ではその結果と議論の様子をお伝えしたいと思います。
APNIC23におけるポリシー提案の結果
IPv6に関連するものとしては、今回4点の提案が提出されていましたが、いずれも参加者のコンセンサス(賛同)は得られませんでした。これらはすべてIPv6普及に熱心な同一の提案者によるもので、前回のミーティングで否決された提案を再提出したものであったことから、「IPv6を普及させることしか念頭になく、内容を充分に検討せずに提出している」と、一部の参加者から強く批判されていました。したがって4点の内「IPv6における初回割り振り基準の変更」を除いては、具体的な提案内容の検討に入る前に議論が終わっています。
そして、今回のミーティングで最も活発に議論が進められたポリシー提案は、JPNICの枯渇対応チームが提出した「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」です。この提案についても、ポリシー施行をともなう決定にはいたりませんでしたが、提案チームが予想していなかった部分で他の参加者との認識や意見の違いが明らかになり、今後の議論を進めていくうえで有益な確認をすることができました。
| prop-042:IPv6における初回割り振り基準の変更 | ⇒ | 【継続議論】 |
| prop-043:IPv6ポリシー文書中の"暫定"の記述の削除 | ⇒ | 【継続議論】 |
| prop-044:IPv6における/48を超える割り当てに対する審議の撤廃 | ⇒ | 【否決】 |
| prop-045:IPv6割り振り対象者をエンドサイトへ拡張 | ⇒ | 【否決】 |
| prop-046:IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー | ⇒ | 【一部コンセンサス】 |
それでは「IPv6における初回割り振り基準の変更」と「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」に関する2点の提案を中心に議論の様子を紹介していきたいと思います。これら提案の概要は前回の連載で紹介していますので、そちらもあわせてご覧ください。
IPv6における初回割り振り基準の変更
「IPv6における初回割り振り基準の変更」について簡単におさらいすると、現在の基準は策定当初の意図に反して、割り振り対象者にとって厳しい要件となっているとの認識から、この基準を緩和することを目指した提案です。内容は、現在の初期割り振り基準として定義されている「2年以内に最低でも200の/48の割り当てを行う計画があること」という要件を、「200」という具体的な数字ではなく「合理的な数の」という記述に置き換えるものです。
JPNICでは、具体的な基準の内容に変更を求めたものの、趣旨そのものに対しては賛成でした。結果は「継続議論」となり、当初の意図とは異なりましたが、議論の詳細を見る限りでは、妥当な結論であったように思います。
この提案への主な反対理由は「変更が必要だという声を聞くという話はあるものの、具体的に困っているというニーズは聞いたことがない」というものです。JPNICをはじめ支持を示している参加者は数名いましたが、反対を表明している参加者が「ではこの中で実際IPv6の割り振りを受けられなくて困っている人はいるのですか」と会場に質問を投げかけたところ挙手がなく、必要性を主張するには論拠が弱い状況でした。
実際、JPNICも反論として挙げられていたポイントと同じく、現在の割り振り基準を厳しく感じている組織があるらしいとの情報を間接的に聞きながらも、実際にそういった組織から具体的な意見を直接は聞いていませんでした。このため、当初は賛成の立場を表明しましたが、現時点ではさらに必要性を主張するためには、まず状況を確かめる必要があると考えています。
今後、この結果を国内の指定事業者やアドレスコミュニティに紹介し、そこでのフィードバックをもとに次回に向けての対応を検討する予定です。
IPv4アドレスの枯渇に向けてのポリシーへの参加者のスタンス
次はIPv4アドレスの枯渇に向けてのポリシーの提案に関する議論を紹介します。これは普段APNICのポリシーフォーラムでは発言しない地域外の参加者等も加わって議論が進められました。
背景としては現在のペースで消費が続くと2012年頃と予測されているIPv4アドレスの枯渇を見据え、枯渇期に混乱が起こらないようにポリシー面で対応できることを考えよう、とのモチベーションから生まれた提案です。
提案では、ISPやオペレータの準備促進のために、事前に割り振り停止日を定義・告知することをはじめとする、5つの原則を打ち出しています。今回はそれぞれの原則に対して個別にコンセンサスの確認を行いました。結果は次の通りです。
| ・IPv4アドレス枯渇対応は全世界共通のポリシーをもとに取り組みを進める | ⇒ | コンセンサス |
| ・全てのIPv4アドレスを割り振ってしまわず、一定量(10*/8)のアドレス残してを割り振りを終了する | ⇒ | コンセンサスは得られなかった |
| ・割り振り終了期日を予め決定し、十分な時間を取って告知する | ⇒ | コンセンサスは得られなかった |
| ・最後の割り振りまで特に延命のためのルール変更などは行わない | ⇒ | コンセンサス |
| ・割り振り(割り当て)済みアドレスの回収は別の議論とする | ⇒ | コンセンサス |
ご覧いただくとわかるように、参加者の基本的なスタンスは、世界的な課題として検討を進めることには賛成だが、人為的に割り振り停止日を操作することには反対というものでした。
なぜ割り振り停止日の設定に反対なのか
“割り振り停止日の設定”をめぐっての議論では、枯渇に備えて望ましい対応についての提案者と、そのほかの参加者との認識の違いが明らかになりました。
提案者側の認識としては「RIRから分配されるIPv4アドレスがなくなれば、ISPは新たにIPv4アドレスを取得できなくなる。したがって、既存のIPv4ベースに代わる技術的な対応が必要となり、これには数年前から準備を進めなければ間に合わない。ISPがその時点で困ることのないよう事前に枯渇日を明らかにし、告知しよう」というものです。
一方、米国や豪州を中心とした参加者は、「こうすることが望ましい」とルールを設定したとしても、経済原理に基づいて物事は進むため、人為的な介入はできるだけ避けることが望ましいと考えているようで、議論の中では以下の理由があげられていました。
- 割り振り日を定義することは人為的に枯渇を早める
- 一定のIPv4アドレスの在庫を残すとその分配をめぐって争いとなり政府の介入にまでつながる危険がある
- 独占禁止法に抵触する恐れがある(ARIN地域)
- 告知の行為自体は否定しないが、割り振りを停止してまで告知することよりISPやオペレータ側の対応が進む効果は薄い
また、一部の参加者は、IPv6の普及を促進するためにIPv4アドレスの枯渇を早めることを目的とした提案を行っていると誤解している部分もあるようです。これは機会あるごとに誤解を解いていく必要があり、できるところでは進めています。
IPv4アドレス枯渇後のインターネットとその対応
ここで述べた「経済原理に基づいて物事が進むからそれに委ねよう」との発想に加え、その他JPNICでの想定とは異なる目新しいものとしては、IPv4アドレスの取り引きや、IPv4アドレスの枯渇後はIPv6に移行するよりもNATが多様化を予測するという考えがあります。例えば、AP地域内でもアクティブな発言者であるRandy Bush氏の考えるIPv4アドレス枯渇後のインターネットは以下のようになるようです。
- インターネットはIPv4ベースであるため、ISPはIPv4ベースでの運用を継続しようとする
- 不足分を充当するよう割り当て済みIPv4アドレスの取り引き市場が登場する
- できるだけアドレスに費用をかけなくて済むようIPv4アドレスを細分化してNATが多用される
IPアドレスの取り引き
この流れで触れているアドレスの売買については、他の参加者からもAPNICにアドレス取り引きの仕組みを整備し、提供することを求める声があげられています。おそらく望むと望まざるとに関わらずアドレスの売買が行われるのであれば、ブラックマーケットで不正な取り引きが行なわれるよりも、公正で適切なルールに基づいて取り引きが行なえる場をRIRで提供した方がよいとの考えに基づいているものと思われます。
“IPアドレス市場”の可能性については、APNICの事務局長Paul Wilson氏も分配済みのアドレスの40%が経路広告が行なわれていないことを指摘したうえで、次のようなコメントを述べています。
「アドレスのリサイクルを促進する方法をコミュニティとして検討するのもひとつの枯渇への対応であると考えられる。リサイクルにあたってはおそらくなんらかの経済的なインセンティブが関わってくる可能性が高い。枯渇後の市場動きを考えると枯渇が起こる前にとりくむことが望ましいだろう」
このことから、「アドレスの売買」としては明言していないもののAPNICもその可能性は否定しておらず、検討の余地を残していると考えてよさそうです。
今後の枯渇に向けての対応
ここまでの枯渇に向けてのポリシーに関する議論を総括すると、世界的に状況を共有し、議論を進めていくことについては合意されていますが、人為的な割り振り停止日の設定と、一定のIPv4アドレスの在庫を残すことについては反対意見が強く、特に今回明らかになった枯渇後のインターネットに関する見解の違いを埋めていく必要がありそうです。
いずれにしても、枯渇対応チームとしては割り振り日を停止することに固執しているわけではなく、今後のインターネット全体の将来に関わる課題を共有し、ポリシー面での対策を考えていきたいというのが、今回の提案の趣旨です。今後は今回の議論であげられた市場取り引きの現実性、NAT運用の合理性等も慎重に検証のうえ、随時提案を見直していくと聞いています。
また、国内でこの結果を共有したうえで議論を行い、次回のAPNICミーティングで再度発表を行うと同時に、4月22日から25日、プエルトリコで開催されるARINミーティングをはじめ、その他RIRのコミュニティでも発表し、日本やアジア太平洋地域に閉じずに調整を進めていく予定です。


