【連載】JPNIC通信 第4回 「IPv6の分配状況からみたIPv6ポリシーの課題」

【連載】JPNIC通信 第4回 「IPv6の分配状況からみたIPv6ポリシーの課題」

社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
IP事業部IPアドレス課 奥谷泉

 これまではIPアドレスポリシーの策定から見直しまでの経緯をお話してきた。そこで今回は、IPv6ポリシーにおける課題は当面解決されていると捉えてよいのか、国内でのIPv6アドレスの分配状況、他の地域でのポリシーと比較しながら考えていきたい。

国内における分配状況

 まず、国内でJPNICからIPv4アドレスの分配を受けているIPアドレス管理指定事業者は約380組織(2006年12月時点)存在する。そのうち、JPNIC経由でIPv6アドレスの分配を受けている事業者は66組織であり、国内における主要な事業者は基本的にすべてIPv6アドレスの割り振りをすでに受けている状況である。

 そして、割り振り件数については2002年は年間17件あったのに対し、2006年は2件とペースが落ちている(図1参照)。

【図1】国内における割り振り件数の推移

 このことは必要な事業者はおおよそIPv6アドレスの分配を受けており、ポリシーの運用が安定している証と受け止めてよいのだろうか。そのように解釈し、当面ポリシーの見直しは不要と考えることも可能かもしれない。

 次に地域単位でのIPv6アドレスの分配を見てみよう。

世界的な分配状況

 2006年9月時点では世界的にISPへ分配が行われたIPv6アドレスは1,175件、このうちRIPE NCC地域が全体の50%を占める、599件、続いてAPNIC地域の277件、ARIN地域の209件、LACNIC地域66件、AfriNIC地域24件という状況である(図2参照)。

【図2】RIRごとのIPv6割り振り状況

 そして、国別に状況を見てみると割り振り件数ベース、割り振りサイズベース、いずれにおいてもIPv6の普及が進んでいると言われている日本は世界3位となっている(図3参照)。そして、これは余談だが、興味深いことに、件数ベースで米国は世界1の245件の分配を受けているが、割り振りサイズベースではトップ10にも名を連ねていない。また、件数ベースではRIPE地域の国がトップ10にあがっている比率が高い。

【図3】世界的なIPv6分配状況(国別)

 これについても日本はまずまずの状況であるいうこともできる一方、日本ほどIPv6の普及が進んでいるという話を聞かない米国やドイツがより多くの分配を受けていることについて、疑問が生じる点もある。

他の地域とのIPv6分配基準の比較

 それでは次にはアドレスポリシー面から、全世界の分配済みのIPv6アドレスの90%を占める3RIRであるARIN、APNIC、RIPE NCCの分配基準を比較してみたい。

 IPアドレスの分配にはRIRからLIR(国内ではIPアドレス管理指定事業者)への分配である「割り振り」、そしてLIRから実際のネットワークへの分配である「割り当て」の2種類がある。また「割り振り」にもLIRが初めてRIRから分配を受ける「初回割り振り」と、すでに分配を受けたLIRが、自ら管理を行っているIPアドレスのストックが不足した場合にさらなるIPアドレスの追加を申請する「追加割り振り」があり、それぞれ基準が異なる。

 追加割り振りと、割り当て基準についてはどのRIRも同じポリシーを適用しているが、初回割り振り基準についてはAPNIC地域が他の2RIRとは異なる基準を適用している。

 APNIC地域の基準は以下の通りであり、これは2002年に施行されたIPv6ポリシーから変更していない。

a) LIRであること
b) エンドサイトでないこと
c) /48を割り当てた組織に対し、IPv6の接続性を提供する計画があり、その経路広告を、割り振られたアドレス一つに集成して行うこと
d) 2年以内に最低でも200の/48の割り当てを行う計画があること

 一方、ARIN地域、RIPE地域については、上記の基準のうち、d)については実際の運用にそぐわないとしてそれぞれ撤廃している。

なぜ他のRIRでは初回割り振り基準の変更を進めたのか

 そもそも取得後、2年以内に200の/48の割り当てを求める基準については、「200」という数値を厳密にとらえて設けられたものではないということを当時のIPv6ポリシー策定メンバーは説明している。

 基準の意図としては、現在IPv4アドレスの割り振りを受けており、IPv6サービスを提供する意向があるLIR(国内ではIPアドレス管理指定事業者)をIPv6アドレスの割り振りの対象と想定し、その規模感を表す目安として設けられたものである。したがって、IPv4におけるLIRであれば、おそらくすでに200以上の顧客は持っており、それらに対してIPv6アドレスを割り当てると考えれば、さほど難しくない基準と想定したようだ。

 ところが、この200×/48の割り当てを重く解釈した場合に、本来意図している事業者が割り振りを受けることができないケースも確認されていった。例えば、大規模な携帯電話ネットワークを構築しているLIRは、その規模から考えると割り振りを受ける資格があると考えられるが、「200の/48の割り当て」を「200の企業ネットワークへの分配」と捉えると基準を満たすことができない。これは個人向けのCATVやADSLサービスを専用に提供しているISPにも同じことが言える。

 これについては、個人ユーザでの接続であっても今後2サブネット以上使う可能性がないとは言えないと解釈し、/48を割り当てれば基準を満たすことができる、また、200という数字はあくまで計画上のものであって、実際に満たすかどうかの確認は行わない等の補足がRIRやポリシー策定関係者からあったが、一方で「基準そのものが非常にわかりにくい、だったら基準をわかりやすく書き換えるべき」という意見もあがっていた。

 このようなことから、RIPE、ARIN地域では200の/48の割り当てを求める基準を撤廃し、一方APNIC地域では、ポリシーの意図を説明するガイドラインを策定することにより様子を見ることにし、現在もこの基準を引き続き適用している。

このままのポリシーでなにか困ることはあるのか

 統計情報を見る限りでは、APNIC地域のLIRは充当な分配を受けているように見受けられ、またガイドラインもあるため、他の地域と初回割り振り基準が異なっていても、このまま運用を続けてもよいとの考えもあると思う。

実際、現在すでに企業向けのサービスを展開している事業者であれば、IPv4における顧客への割り当て数が200件を越えていれば、200×/48の割り当てを行う計画を証明することは容易くできるため、現状に特に反対する理由はないだろう。

 ただし、現状のポリシーを施行し続けた場合、もしも他の地域と違いが出てくるとすれば、CATVやADSL等、個人ユーザ向けのインターネット接続サービスを中心に提供している事業者がIPv6アドレスを取得しようと考えたときの“容易さ”なのではないだろうか。

 ARINとRIPE地域では現在、IPv4におけるLIRであり、かつIPv6サービスを提供する予定があれば、顧客の規模感を気にすることなくIPv6アドレスの申請を行なうことができる。APNIC地域でも、実際には、個人ユーザに対して/48の割り当てを行う方針のもとに申請を行えば、割り振りを受けることが可能である。しかし、そういった対策を知らない事業者にとっては「2年で200」の条件が障壁となり、申請を見送ってしまう可能性は否定できない。

では今後どうすればよいのか

 単純に他の地域とポリシーを合わせるという面では、見直しを進めることが望ましい。また、他の地域とのアドレス取得の格差が、IPv6の普及状況によるものではなく、分配基準の制約によって生じるものとはならないためのケアが必要である。

 一方、少なくとも統計情報からは現在のポリシーにより大きな問題がある兆候も見当たらず、他の地域と比べれば多少の差はあれど、本当に必要とする人が困っていなければ問題はないとの考え方もあり、現時点では一概にどちらがよいと言い切ることは難しい。

 前回のJPNICオープンポリシーミーティングの参加者で、問題を感じていることを伝えてくださった方がおり、おかげでそういうニーズもあることを認識することができたが、今後検討を進めるにあたってはもっと他のコミュニティメンバーからの意見も伺う必要があると考えている。

 その結果どのような結論となるにしても、問題であるとの認識が無かったために対応しなかったということにはならないよう、JPNICとしても今後も積極的に情報提供を行い、ポリシー見直しの必要性について国内のIPアドレス利用者のコミュニティへ問うていきたいと考えている。

 ちょうど9月の第1回で紹介したIPv6アドレスの割り当てサイズがデフォルト/48ではなくなることによって、初回割り振り基準にも影響を及ぼすため、これを機に今後ip-usersメーリングリストを中心に意見を募る予定だ。もし現在のIPv6ポリシーについて思うところがあれば、是非ip-usersメーリングリスト(http//www.nic.ad.jp/ja/profile/ml.html#ip)、ポリシーWG(jpopf@venus.gr.jp)、またはJPNIC(ip-service@nir.nic.ad.jp)まで気軽にご意見を寄せていただければと思う。

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