ヴィント・サーフ Google副社長 記者会見レポート

ヴィント・サーフ Google副社長 記者会見レポート

タグ:
~インターネットの父が語るIPv6とNGN、そしてネットワークの中立性

 TCP/IPの開発者として「インターネットの父」と呼ばれるヴィント・サーフは、現在Google Inc.の副社長兼チーフインターネットエヴァンジェリストをつとめている。彼がGoogleに移籍する際に様々な憶測を呼んだが、実際にGoogleに彼がどんなミッションを担っているのかは、はっきりしていない。

 その彼が来日に際して記者会見を行なった。内容はインターネットの中立性や、Googleが密かに進めているというIPv6について、そしてNGNやWeb2.0といった話題のキーワードについても積極的な意見を述べていた。

 そこで記者会見でのヴィント・サーフ氏の全発言を、日本語訳をお伝えする。今回は、冒頭のスピーチに関して掲載し、次回は質疑応答の様子をお送りする。<編集部>

 まずギーク(geek)という言葉をご紹介しましょう。ギークとは、エンジニアリング、数学、科学、技術などに関心のある技術者を指します。もちろん私もギークです(笑)。みなさんも技術者用語としてこの言葉を目にしているでしょう。あなたがギークについて話すということは、あなたとギークの関係が良好だということです。ただ皆さんは私からギークの話を聞こうとは思われていないはずですし、今回はギークについてあまり多くを語らないつもりでいます。

 今日お集まりの皆さんはメディアの革命的な変化のただ中におられる方々と聞いています。そこで今回は「インターネットとメディア」についてお話したいと思います。

 変革は、1960年代後半から1970年代初頭にかけて始まりました。当時の通信の世界では、2地点を接続するのにどの程度の通信回線の容量が必要なのか、またすべての需要や用途のために固定回線が敷設され接続されるべきなのか、といった疑問が示されていました。その頃に利用できた通信サービスは大別すると二種類あります。一つは、送信者と受信者を直接結ぶポイント-ポイント形式のもので、当時はその方法で情報をあちこちに送りあっていました。もう一つは、「スイッチ」と称された電話会社が送信者と受信者の回線を交換する、いわゆる電話サービスです。

 当時の電話会社は、およそ数百万ドルを回線交換のスイッチの構築に費やしていました。そしてスイッチごとに多くの回線を抱え、誰かが受話器を取ってダイヤルを回し、その相手が受話器を取ることで、ポイント-ポイントでの通信を開始する、というサービスを提供していました。通信が行われている間、回線は両者の通話のために提供され、また通話後も、いずれ他の誰かが通信を開始する時まで回線が維持され続ける。これが回線交換スイッチの名称の由来です。

 通信の変革は、ある人が「違う方法を考えた!」と言ったところから始まりました。それがパケット交換です。この方法は回線交換とは全く違う方法で、この話を聞いた電話会社の関係者の反応は「これは絶対に動かない」というものでした。

 皆さんは、郵便ハガキがどんなものかご存知でしょう。表に宛先や送り主の住所、つまり「誰が誰に送ろうとしているのか」という情報が、そして裏には手紙の内容が書かれています。インターネットのパケットはこのハガキと同じように転送されるように作られました。もちろんインターネットの方が1億倍は高速ですけど。

 ハガキと同じ転送システムということは、ハガキと同じ信頼性だということです。たとえばハガキを投函する時、相手に確実に届くかは分かりませんよね? もちろん日本の郵便局は非常に優秀だと思いますが、それでも確実に配達することは保証されていないはずです。これがベスト・エフォートの通信システムなのです。あなたがインターネットに何か情報を送り出した時、それが相手に確実に届くかは分かりません。二つの情報を送り出した時、両者が同じ道順で到着するとは限りません。インターネットの通信はこういう仕組みで作られています。

 一方、そうはいってもインターネットでは起こるのに郵便局では起こらないことがあります。たとえばあなたが何か情報を送った時、インターネットは時々それを二度送ってしまうことがあります。私の知る限り、郵便局はハガキをコピーして2通送ったりはしません。しかしインターネットは時々これをやってしまう。インターネットは、こんなふうに情報の塊を扱う、ちょっと不思議なシステムなのです。

 確実に届けること、いつでも確実に動くこと、複製なしに届くこと…インターネットはこうしたことを保証しません。そのため私たちは、郵便配達のレベルの機能を実装したインターネット・プロトコル(IP)の上に、伝送制御のプロトコル(TCP)を作り、これらの問題の解決にあたりました。TCP層は整然とした情報の伝送を、エンド・トゥー・エンドの考え方に基づきつつ実現したのです。

 さて、パケットネットワークがあり、そのネットの両端にそれぞれコンピュータが接続されていれば、私たちはインターネットパケットのやりとりができます。一方ネットの中ではTCPプロトコルが、レイヤー構造で積み重なって動いています。先ほどの郵便ハガキの比喩を思い出せば、このTCPのふるまいを簡単に説明できます。

 ここに一冊の本があります。あなたは友人にこの本を郵便で送りたい。けれど郵便局が「うちはハガキしか扱わないよ!」と言っていて、郵便ハガキにこの本を添えるという方法でしか郵送できない、とします。そうしたら、本のページを一枚一枚ちぎり、ハガキに貼り付けて送るしかないですよね。その時あなたが最初に気がつくのは、あなたがページをちぎって貼り付けた日付がハガキに記されていない、そしてそれがないとハガキを受け取った友人が本を復元できない、ということでしょう。そこであなたは、1,2,3,…と番号を振っていくはずです。そうすれば、友人は本を元に戻すことができます。

 次に、あなたは何枚かのハガキが配達途中でなくなってしまう場合があることを思い出します。ならば再送しなければならない時に備えて、手元にコピーが必要です。そこであなたは「このコピーを送るべきタイミング、つまりどのハガキがいつなくなってしまったのかを、どうやって知ればいいのだろう?」と自問し、いいアイディアが閃きます。そうだ、420番のハガキが友人のもとに届いたところで、どこまで受け取ったかを友人に伝えてもらえばいい、そうすれば私は不足分のコピーを投函することができる。

 しかし友人が何枚受け取ったかを伝えようとしたとして、その伝達用に送ったハガキが途中でなくなってしまうとしたら、どうすべきか。そこであなたは決断します、もし友人が何枚受け取ったかの情報が届かない場合は、その情報が届くまで、こちらからはひたすらコピーを送り続けることにしよう、と…これが、TCPのしていることです。TCPは、パケットの数を数え、順序通り送り、技術的な損失やコピーを送信しはじめるまでの到着状況に応じた再送信を行います。

 私がこのような方法を採ったのは、この小さなモデルこそがインターネットを実際に動かす上で最も正しい方法だと思ったからです。郵便ハガキを投函する時、そのハガキが日本からサンフランシスコまでどういう経路で届くのか、あなたは考えなくていい。その役割は郵便局が担います。インターネットも同じことで、A地点からB地点までのどう届けるかはインターネット自身が決めるのです。そのため、ネットワーク自身は、とてもシンプルかつ高速で、多くの異なる接続先を有し、そして「アプリケーションは何も知らなくていい」ことが必要です。

 もう一度ハガキのことを考えてみましょう。ハガキ自身は、自分に何が書かれているのか知らない、無口な一片の紙です。だからこそあなたは、あなたが書きたいことのすべてを、書きたい言葉で書くことができます。郵便局はハガキにあなたが何を書いたのかを気にしません。彼らが気にするのは宛先と送り主、二つの住所だけです。またおもしろいことに、ハガキは、それが自動車で運ばれるのか、飛行機か船か、あるいは誰かが紙飛行機にして飛ばすのか、そんなことは知らないし気にもしません。

 インターネットのパケットも同様で、それがどのように届けられるのか、まったく知りません。あなたはそれを、ツイストペアのケーブルでも、光ファイバーでも、運ぶことができます。そしてパケットの中にあなたが何を収めたのかも、パケット自身は何も知りません。そこに収められているのはデジタル・ビットだけです。それは、映像であり、音声であり、Webサイトへのリンクであり、何かのテキストかもしれません。そのビットが漢字を表現しているのか、古代シリア語なのか、ラテン語かローマ字か。そんなことも気にはしません。

 インターネット自身は、そこで動いているアプリケーションについて、まったく何も知りません。ビットの解釈はアプリケーションが実現しますし、その作業はネットの終端にあるコンピュータが行います。それゆえ私たちは、既存のメディアでしてきたことのすべてを、インターネット環境上で再現することができます。インターネット革命があなたにとって重要である理由はそこにあります。文書情報もやりとりできれば、新聞や雑誌と同じように情報を伝達することができますし、もちろんそれを印刷することもできます。ラジオやCDと同じように音楽を聴くこともできますし、映像をダウンロードして視聴することもできるのです。

 すなわちインターネットとは、あらゆる形態のデジタル情報を、あらゆる目的で伝達する手段なのです。そしてそれは、私たちがかつてテレビのために特別なネットワークを作ってきた経験とは異なる、何か特別のアプリケーションのために捧げられたものではありません。私たちは、インターネットとは別のネットワークやシステムとして、イーサネットや衛星通信のために開発してきました。今やインターネットはそのすべてを使えるのです。

 このように多くの既存のメディア表現を再現できるインターネットですが、あまり得意でない分野に「放送」があります。しかしもしあなたがラジオ放送や衛星放送に携わっているのだとしたら「大丈夫、インターネットのパケットを放送のように広く伝送することはできる」とお伝えしたい。インターネットでも同時に一人以上の人が同じコンテンツを受け取ることができるのです。私の勤めるGoogleだけでなく業界全体で、まだこの方法について発展途上にありますが、すでに視聴者が同時に番組を受け取れるような技術を実装したいくつかのアプリケーションが登場しています。

 情報伝達で重要なのは、既存のメディア表現を再現することだけでなく、まだ既存のメディアが実現していないことをこのパケット通信環境の中で作り上げることです。そこには双方向利用に関し、既存のメディアより多くの可能性があります。たとえば伝統的なメディアが提供している広告とGoogleが媒介する広告の間には、その面で相違があるでしょう。Googleはご存知の通り、インターネット全体の中で見つけたい情報を探すための基本的なインターネット・アプリケーションの一つです。しかしそれだけでなく、「あなたが何かを見つける時、探していたのは他にこんなことでは?」という提案もGoogleはしています。

 ところで、もしかするとあなたはこういった広告をクリックしたいかもしれないし、しなくないかもしれない。その広告をクリックする必要もなく、無視していいのかもしれない。実際、多くの人がそうしています。しかし少なくない人々がこうした広告を無視せず、そしてその結果私たちが年間60億ドルものビジネスを作り出している、これもまた事実です。その成功の理由は、利用者がすでに製品やサービスに関心を持っているなどの理由でクリックされなかった広告ついては、広告主が費用を支払わずに済むからです。あなたは、チラシのような印刷広告や、果たして本当に読者が関心を持っているのか分からない雑誌広告などの世界よりも、ずっと先にいるのです。インターネットの双方向性が、あなたに「その人は関心を持っているのか」ということを知るための手がかりを提供しているのです。

 一方で私たちは、クリック詐欺問題を看過するわけにはいきません。私たちが展開する広告事業の一部に過ぎませんが、これは対処の必要な問題です。私たちは、一部の人々が自分の広告を自身でクリックしているか、競争相手の広告費用を増加させるためにクリックしていることを知っています。もっとも、双方向性によってそれらも集計できますし、また現実は特定の広告をクリックすれば、それに関するより詳しいWebサイトへ誘導されるというだけです。結局これも対話型広告の初期的な出来事なのです。

 対話型広告の秘訣は、消費者が握っています。この媒体での活動において私たちは、自分の生活スタイルを自身で決めたい、という消費者の意志を重視する必要があります。もしあなたが雑誌やテレビのビジネスに関わっていて、あなたが編成の仕事をしているとしたら、○○という番組を水曜日の6時からABCラジオで(あるいはXYZテレビで)放送します、と決める必要があるかもしれません。

 しかし視聴者は、水曜の6時にテレビの前に縛り付けられたくないな、できれば金曜の10時がいいな、という人もいるでしょう。すなわち消費者は「いつ、これができます」というように情報を伝えようとする事業者を嫌うのです。

 すでに消費者自身のライフスタイルに応じて情報をコントロールする機器が登場しはじめています。たとえばTiVoはその一つですし、iPodは消費者が欲しいと思った楽曲をダウンロードして、消費者が聴きたい時にいつでも聴ける、という機能を実現しています。皆さんも何か似たようなものをすでにお持ちではないでしょうか。

 このことのポイントは「消費者はもっと自分でコントロールしたい」ということです。私がお伝えしたいのは、たとえば消費者がコントロールしたいと思っていることの提供がインターネット環境には可能であり、またそれを実現しやすい、ということです。実際、対話型広告にしても、関心がなければ彼らはその広告を見ることはありません。

 そしてさらに申し上げると、もし私たちが電子メールやWebサービスのほかに新たなメディアを見つけたとしたら、広告という収益モデルによってGoogleはさらなる成功の可能性を見出すことができるのです。消費者がこれまで以上に情報のコントロールを求めている、という考え方に皆さんが同意いただけるとしたら、他のメディアと同じような成功を収めることができるでしょう。

 以上が、インターネット環境で起きていることを私なりに見た概要ですが、まとめとして30年前に私たちが考えたことにいくつかの新しい出来事を加えましょう。一つは、モバイルの出現とインターネットでの台頭です。それらの勢力は今後もっと拡大していくことでしょう。モバイルならではの小さな画面と利用者の特性に応じたよりよいデータ処理を、Googleでも推進していくことになるでしょう。

 モバイルの特徴は、利用者が常に同じ場所にいるわけではない、ということです。あなたが、オフィスの机に座っているのと同じように別のどこかでネットを利用していても、あなたがネット上でインタラクションできている限り、あなたはどこへでも行けますし、あなたがどこにいるかを知ることもできます。そしてGPSなどの位置情報システムを搭載した最近の携帯電話機であれば、あなたは自分がどこにいるかを明確にし、またそれを私たちに伝えることもできます。そしてそれをもとに私たちは、あなたがいる場所、行こうとしている場所に沿った情報を簡単に提供できるでしょう。このようにモバイルは、広告やそれに関連した情報提供サービスに新しい大きな可能性をもたらします。

 最後に私からお伝えしたいことは、インターネットを使う時は一度に一つだけの機器で、と多くの人が考えているということです。たとえば、席に座ってノートPCを開き、ネットを使い始めるとします。メールを書いたり、Googleで何か調べ物をしたりしているでしょう。その時、あなたはノートPCという一つの機器だけで作業をしているはずです。モバイル機器を使ってネットを利用しているその瞬間は、その機器だけをあなたは利用しています。すなわち、たとえ多くの機器を持っていても、実際にネットを使うときは、機器から機器へスイッチしている、ということです。

 このスタイルは変わっていく、と私はここで申し上げたい。その理由は、私たちの身の回りにある様々な機器が今後どんどんオンライン化していくからです。そしてそれらの機器は今後どんな時もネットにつながり、たとえば私たちがどこかの機器で仕事をしていても、それら同士が連携して様々なサービスを実現していくでしょう。たとえば携帯電話で私の家のホームエンターテインメントシステムを動作させる、ということも可能です。

 たとえば、私のノートPCにあるデータをあなたに見せたいと思った時、私がそのPCのある部屋にいて何かを始める、ということが無意味になってきます。そのPCは何らかの外部制御用のケーブルではなく、LANケーブルや無線LANに接続され、PCの中にあるパワーポイントのファイルを、PCの前にいようといまいと、操作することができます。またPC以外の機器も同時に接続して様々なコラボレーションが実現します。そんな作業の合間にも、大型ディスプレイをモバイル機器でコントロールし、映画を映し出すこともできるでしょう。このような複数機器利用によるインタラクションのアイディアは、今後どんどん登場してくる領域です。

 最後に、インスタントメッセージングについても触れさせてください。すでにインスタントメッセージングは、単なる文字入力のチャットの手段ではなく、音声コミュニケーションのツールになっています。あるいは小型カメラを付ければ簡単にビデオ会議もできます。さらに加えると、たとえばWritelyやGoogle spreadsheetsのようなアプリケーションも使うことで、ネットを介したコラボレーションが、ネットの両端で実現します。すでにインスタントメッセージングは、会話や映像コミュニケーション、コラボレーションのツールになっている、ということです。同様なことは、すでにPlayStationのようなゲーム機器でも実現され、世界中でオンラインゲームが盛んに行われていますね。

 私たちはすでにいつでもネットでやりとりできるよう適応した機器のある環境を経験しています。それがまたインターネットの多様さを実感させるのです。インターネットはグループコミュニケーションや双方向のインタラクションを媒介し、文字、音声、映像の通信、そしてコラボレーションを支えるメディアなのです。

 ~質疑応答編に続く

(翻訳 黒坂達也)

この記事のトラックバックURL

http://www.ipv6style.jp/trackback/855
Ads by Google

特集

リンク

go6.netはIPv6の普及を促進するコミュニティ・ポータルです。
http://go6.net/

IPv6ブログ