【連載】 JPNIC通信 第1回 「IPv6アドレスポリシーを取り巻く現状」

【連載】 JPNIC通信 第1回 「IPv6アドレスポリシーを取り巻く現状」

社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
IP事業部IPアドレス課 奥谷泉

見直しの進められているIPv6アドレスポリシー

 IPv6アドレスの最大の特徴は、すでにあらゆるところで言い尽くされているようにその膨大なアドレス空間であると言えるだろう。そして、IPv6アドレスポリシーも、このIPv6の特性に基づき、効率的な利用よりも経路集約に重点を置き、策定されている。

 今でもその基本的なスタンスに変わりはないが、まだ商用サービスがほとんど開始されていなかった時期に手探りで策定されたときから、実際の運用状況にあわせて見直しが進んでいる。

 特に今年の9月は、これまで進められてきたいくつかのIPv6ポリシー見直しの議論が収束し、施行に向けての動きがあった時期といえそうだ。

本年9月に決定したポリシー

 この9月に施行について支持が得られた、または正式に承認されたIPv6ポリシー提案は3点ある。

  1. エンドサイトへの割り当てポリシーの変更
    http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-033-v001.html
  2. マルチホームネットワーク(※4)を対象としたPIアドレス(※1)の新設
    http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-035-v002.html
  3. IANA(※2)からRIR(※3)への割り振りに関するグローバルIPv6アドレスポリシー
    http://www.nic.ad.jp/ja/topics/2006/20060915-01.html

 1)、2)は第22回APNICオープンポリシーミーティング(2006年9月4日~8日 台湾・高雄市)にてアジア太平洋地域のアドレスコミュニティによる支持が確認され、その後大きな問題点がなければ、施行される見込みとなる。3)はグローバルポリシーとして、各RIRコミュニティによるコンセンサス(賛同)の確認を経て、9月7日にICANN(※5)により正式に施行が承認されたものである。

 それではなぜこれらのポリシー変更が必要だと考えられたか簡単に振り返ってみたい。

IPv6ポリシーの抱えていた課題

 2002年7月に世界で一斉に施行されたIPv6ポリシーは、実際に運用を開始してみるとまだいくつかの課題が残されていることが少しずつ明らかになってきていた。

  1. 「無限」として知られているIPv6アドレスだが、現在のポリシーで分配を続ける限り、無限ではない
  2. マルチホーム接続を行うネットワークがIPv6へ移行できる環境がポリシー面で整っていない
  3. IANA(※2)からRIR(※3)へのIPv6アドレスの割り振りポリシーが整備されていない
  4. ポリシー策定時に割り振り対象と想定していた組織も現在の割り振り基準を障壁と感じている

 そして、これらの課題に対応するために、IPv6アドレスポリシーの見直しに向けていくかの議論が展開されてきた。

  • IPv6アドレスにおいてももう少し効率的な利用を意識する必要があるのでは?
  • IPv6アドレスにおいてもPIを認めるべきか?
  • IANAからRIRへのIPv6アドレスポリシーも整備が必要ではないか?
  • 割り振り基準はより施行当初の意図を反映したものにするべきか?

より効率的な分配に向けて

 過去1年~1年半にかけて最も活発に議論が行われた話題が「現在のポリシーに基づいた分配を続ける限りIPv6アドレスは決して無限ではない」というAPNIC(※6)のInternet Research Scientist、Geoff Hustonによる発表をきっかけとした議論であった。

 そして、より効率的な利用を意識した「エンドサイトへの割り当てポリシーの変更」の提案はこれをきっかけに策定されていった。

 すでに広く知られている通り、IPv6におけるエンドサイトへの割り当てサイズはポリシーで一律/48と定義され、ISP(※8)は、適切な分配サイズをネットワークの規模に応じて考えることなく、アドレスの設定を行えることがIPv6アドレスの利点のひとつと言えるだろう。

 それにも関わらず、分配方針の見直しを必要とす主張するGeoff Hustonの考えを要約すると以下のようになる。

IPv6アドレスが無限と言われているのは128ビットをフルに使った前提での話である。現在のように/48ベースでのエンドサイトへの分配を続け、IPv4のように当初想定されていた用途から大きく発展した場合には、また数十年で枯渇する可能性がある。そして、インターネットの枠組みを超え、半導体チップを埋め込めるすべてのものにIPv6アドレスを付与する可能性は多いに有りえるだろう。そのようなことに備えて、エンドサイトへの最小割り当てサイズを/48に限定しないようにしたい。

 この論拠が多くの仮説に基づいていることは否めないが、/48をIPv4に置き換えると/16(65,536アドレス)に該当すると考えると見直しを検討する余地があることも理解できなくはない。

 そして、2005年9月に第20回APNICミーティングへ提出された当初の提案では個人ユーザやSOHOには/56、その他の用途では/48を割り当てるよう、用途に応じて割り当てサイズを定めた内容となっていた。提案者はIPv6の商用サービスがまだ本格化していないため、大きな影響はないと考えていたようだが、議論を進めるにつれ、少なくとも日本国内においてはすでに100万ユーザ相当のデータベース登録を行っているLIR(※7)も存在し、影響が想定していた以上に大きいことが明らかになってきた。実際、JPNICが2005年秋に実施した調査では、割り当てサイズを/56へ見直さなければいけない場合、対応コストが1,000万円以上となる事業者が複数確認されている。

 これら既存のIPv6サービス提供者からの強い懸念と、ネットワークへの割り当てサイズは運用にたずさわっているLIRの判断にゆだねるべきである、との意見を取り入れた結果、今年9月のAPNICミーティングでは、以下のように/48に限定せず、LIRの判断で割り当てサイズを決定してよいとする内容に留めた提案となっている。

  • エンドサイトへの割り当てを/48に限定しない
  • エンドサイトへの割り当てサイズはLIR、またはISPの判断に委ねる
  • 追加割り振りにおける利用率の計算を/48から/56の登録ベースに変更する(/48の登録は256×/56として算出される)

 そして、既存の事業者への影響を考慮し、/48の割り当てを希望する場合はこれまで通り可能であるが、利用率計算を/56に変更することで、今後/56の割り当てが増えることを期待してるものと思われる。

 また、国内では上記のような懸念を示す一方で、個人ユーザおよび法人ユーザへの割り当てサイズを区別することにより差別化が図れる、割り当てサイズを選択することにより追加割り振り申請の時期を調整できる等、提案の施行によるメリットを見出す声も表明されている。

 この提案は、一部の地域のみで施行しても効果が薄いため、全RIR管轄地域において世界的に同一の提案が行われ、アジア太平洋地域では今後大きな問題がなければ、約3ヶ月程度で施行される見込みである。

IPv6でPIアドレスを認めるべきか

 IPv6ポリシー策定時には意図的に、LIRを介さずにRIR/NIR(※9)から直接エンドサイトへ分配を行うPIアドレス(プロバイダ非依存アドレス、※1)は設けなかった。IPv6においては、その膨大なアドレス空間から多くの組織への分配が可能となるため、経路表の増加に対して慎重になる必要があると考えたためだ。

 しかし、IPv4においてはマルチホームネットワーク(※4)に対してPIアドレスの分配が認められており、これらのネットワークがIPv6へ移行するには上位ISPからIPv6アドレスの割り当てを受け、パンチングホール(※14)を行う以外に手段がないというのが現状だ。

 この問題を解決するためにはやはりIPv6においてもPIアドレスの分配を認める必要があるとの議論がARIN(※10)地域では2004年秋から進められ、国内においても2005年12月からPI新設に向けての議論が行われてきた。

 この9月にアジア太平洋地域におけるポリシーとしてAPNICのミーティングで通った提案は、9名のボランティアメンバーから構成され、国内で検討を進めてきたIPv6 PI WGにより提出されたものである。

 提案内容は非常にシンプルで、IPv6においても同じくマルチホームネットワークへのPIの割り当てを認めようとしたものだ。割り当て基準もIPv4で設けれている要件をIPv6に置き換え、3ヶ月以内にマルチホーム接続を行う予定があれば割り当てを受けられると定義しており、詳細は下記の通りである。

割り当て対象:エンドサイト
割り当て要件:割り当てを受けてから3ヶ月以内に、PIアドレスを用いてマルチホームを行うこと。一定期間後、使用していない場合には回収の対象となる
その他:パンチングホールとの混同によるフィルタリング防止のため、LIRへ分配を行うPAアドレス(※11)とは別の空間を確保し、そこから分配を行う。

 そして、今回のAPNICミーティングでの提案にあたっては、IPv6では経路表の増加を懸念し、一般的にはプロバイダで集約されないエンドサイトへの割り当てはあまり望ましくないと思われていること、また、IETF(※12)でshim6(※13)の検討が進められていることを考えると、施行に向けてある程度の抵抗が予測されていた。

 しかし、ふたを開けてみると大きな反対意見もなく支持され、予想以上にスムーズにコンセンサスを得ることができた。これは、すでにARIN(※10)で同様の趣旨の提案が通っていたことも後押しとなった要因ではあるが、shim6では技術的に不十分であることを説明し、対象をマルチホームに限定したことが、参加者からの支持が得られた理由ではないかと考える。また、提案者である外山勝保氏(NTT)が、関係者と事前に直接時間をとって話し合い、提案の趣旨を充分に理解してもらっていたことも成功の鍵となったと言えるだろう。

 なお、ARIN地域では9月1日のサービス開始後1週間ですでに2件の申請が提出されたと聞いている。

IANAからRIRへのIPv6割り振りポリシーの整備

 これはIANAがRIRに対して割り振りを行う際のポリシーを定めたもので、RIR/NIR(※9)からLIRへの割り振りと同じく、最小割り振りサイズ(/12)や利用率(50%)を定義している。

 RIRがLIRへ分配するためのポリシーは定義プロセスに基づき施行、文書化されている一方で、IANAからRIRへの分配ポリシーは運用上の慣習に頼っていたため、きちんと整備しようという動きから提案へつながった。

 また、ちょうどRIRが割り振りを受けるサイズが小さすぎる(/23)ことが確認された時期でもあり、これを/12に見直すよい機会であったとも言える。事実、国内のLIRから/23を超える割り振り申請が行われた際、APNIC(※6)がIANAから新たなIPv6アドレスの割り振りを受けるまでホールドしていた事例もある。

 この提案はすでに2004年に全RIRでそれぞれ提案が行われ、コミュニティからの支持が得られていたが、IANAからRIRへのポリシーは「グローバルポリシー」と位置付けられており、ICANN(※5)の承認が必要であるために施行が本年の9月7日となったようだ。

IPv6アドレスポリシーの今後

 ここであげた3点の提案のうち3)はすでに正式に施行済であり、1)、2)についても特に大きな問題がなければ2006年12月頃に施行される見込みとなる。

 1点、エンドサイトへの割り当てポリシーの変更については、大きな方針に対してミーティングでの賛同が得られたものの、ガイドラインの策定はどうするのか、データベース登録の最小単位はどうなるのか、初回割り振り基準は引き続き/48の割り当てベースとなるのか等、詳細の詰めが必要な点が残っているが、これについては今後APNICのメーリングリストでコメント募集期間中に確認を行う必要がある。

 なお、これまで課題として挙げられ、まだポリシーとして施行されていない初回割り振り基準の見直しについては、一部他のRIR地域ではすでに施行しており、アジア太平洋地域としてのスタンス、すなわち、明示的に意思をもって適用しないのか、それとも適用する方向で検討を進めるのかを明確にしておくことが望ましいと思われる。

 次回は、これらの提案が賛同にいたるまでの調整や議論について、もう少し詳しくご紹介していきたい。

脚注

※1 PIアドレス「JPNIC用語集 - PIアドレス」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ha.html#16-piaddress

※2 IANA「JPNIC用語集 - IANA」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-IANA

※3 RIR「JPNIC用語集 - RIR」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ta.html#14-tiikirejisutori

※4 マルチホーム「JPNIC用語集 - マルチホーム」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ma.html#17-multihome

※5 ICANN「JPNIC用語集 - ICANN」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-ICANN

※6 APNIC「JPNIC用語集 - APNIC」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ah.html#01-APNIC

※7 LIR「JPNIC用語集 - LIR」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ra.html#19-lir

※8 ISP「JPNIC用語集 - ISP」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-ISP

※9 NIR「JPNIC用語集 - NIR」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ka.html#12-nir

※10 ARIN「JPNIC用語集 - ARIN」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ah.html#01-arin

※11 PAアドレス「JPNIC用語集 - PAアドレス」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ha.html#16-paaddress

※12 IETF「JPNIC用語集 - IETF」
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-IET

※13 shim6
IPv6に特化したマルチホーム手法として検討されている技術です。IETFでは、multi6 WGでの議論を引き継ぐかたちで、実プロトコルの標準化を進めるために2005年8月より、shim6に特化したWGが設立されています。
一方、BGPを利用せずにマルチホームを実現する技術であるため、規模の大きなネットワークには適していないとの意見もあげられています。

※14 パンチングホール
ISPは通常、経路数増加防止のために個々のネットワークに分配を行ったIPアドレスブロックを集約し、まとまった単位でグローバルインターネットへの経路広告を行っています。
パンチングホールとは、主に冗長的なネットワーク構成実現を目的として、ISPがまとめて経路広告を行っているアドレスブロックの一部をより小さく区切り、自ISPあるいは他ISPから別途経路広告を行う手法です。
本来ひとつに集約して広告されていた経路がまた別の経路として広告されるため、パンチングホールはインターネット全体の経路数の増大につながると言われています。

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